今年25年目を迎えた『奇跡体験!アンビリバボー』(フジテレビ系)。当時はまだ定着していなかった“再現ドラマ”を確立させ、これまで概算3000本の世界各国の超常現象や事件・事故、奇跡のエピソードを紹介してきた。その内容はというと、インターネットがまだ発達していない時代から、海外を駆け回り、当事者に話を聞くことにこだわってきたという。いまやバラエティの定番となった再現ドラマが生まれたきっかけと、その神髄を角井英之Pに聞いた。
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「本当に毎週できるの?」当初の不安跳ねのけ、フジ・ゴールデン帯最長寿バラエティに
同番組が産声を上げたのは1997年。同時期に始まった同系の『めちゃ×2イケてるッ!』と『とんねるずのみなさんのおかげでした』が3年前に放送終了したため、現在フジのゴールデン・プライムで最も長く放送されているバラエティ番組となった。それ以前の同枠で放送されていたのは、ビートたけし出演の『平成教育委員会』。大人気番組の後釜として、当時のバラエティの革新的立ち位置を担っていた。
「それ以前は、ドラマならドラマ、バラエティならバラエティ、とジャンル分けがビシっとされていたんです。そんな中、違う角度のものをやりたいという話をしている中で、本番組のアイデアが出てきた。スタジオでトークする“バラエティ”でありながら、再現で“ドラマ”パートもある。特に当時のフジテレビはドラマとバラエティが当時全盛期で人気もあったので、それぞれの良いとこ取り…ミックスすればより良いものが出来るんじゃないかと。こうして生まれたのが『アンビリバボー』です」(角井氏/以下同)
- スタジオパートでは剛力彩芽、バナナマンらが出演する『アンビリバボー』
それ以前も、1コーナーや特番、イメージ画像やシルエット的な表現での再現はあった。だが、全体を通して再現VTRを中心に展開していくレギュラー番組は他になかった。それだけに、懸念は大きかった。「できれば面白いけど、本当に毎週できるの?」「甘く見ている」「絶対無理」などという声が相次いだ。当初は「まさか25年も続く番組になるとは夢にも思わなかった」と角井氏は振り返る。
毎週何本も再現VTRを撮る予算。そもそも、バラエティ班にドラマが撮れるのか。レギュラーで続けていくだけのネタ探し…。特に技術は問題で、若手のドラマ監督、助監督を紹介してもらった。「とは言え、無尽蔵に予算があるわけではない。そこで、再現VTR撮影は監督1人、AD1人の超少数精鋭で撮影。当時の常識ではあり得ない無理難題で、ある著名なドラマ監督さんから『あれを2人で撮っているだなんて信じられない!』『ドラマ部ももっと人員配置を見直さなければならない』などの声も頂きました」
100本ネタを集めてようやく採用されても、本人に話を聞いて事実誤認であればボツ
こうしてバラエティ界、ドラマ界双方の常識を打ち破り、革命を生んだ『アンビリバボー』だが、放送当初の反響はいまいちだった。世帯平均視聴率15%が当たり前の時代に、初回は10.6%。しかし、2ヵ月経つと15%を超え、人気番組への軌道に乗り始める。
それから25年。人気番組が次々と幕を下ろす中、同番組が変わらず愛されている理由の1つに、地道なリサーチ力がある。当時はもちろんインターネットには頼れない。情報は手で取り足で取り、海外支局や現地のコーディネート会社などからニュースの録画、新聞の翻訳を収集。国内の地方新聞も片っ端から目を通した。
「週に100本ほどの実話を集め、事前取材に至るのが5本程度。そこからなんとか海外にアポイントをとっても、当事者に『もうテレビ取材はうんざり』と断られたり、本人に話を聞くと事実誤認があったりもしました」(角井氏)
- 本日11日(木)は、『秋の夜長!謎が謎を呼ぶミステリー3時間SP』放送予定
ようやく世界中から集まった奇想天外なネタの数々。正直、海外の事件であれば、多少事実が違っても放送上で気づく人はいなかったかもしれない。しかし、どんなにネタとして面白くても、“当事者に話を聞くこと”にこだわってきた。
「最初の企画書に『事実は小説より奇なり』って書いてあって、もうそれに尽きるんです。当然、どんな服を着ていたかまではわからなかったり、脚色している部分もありますが、なるべく先入観なく、きちんと事実を調べた上で、映像を作りたい。私達の想像力って大したことなくて、実際に調べてみると、はあ~っと驚くことがいっぱいあるんです。記事だけでは盛って書かれたりしていて、当事者に話を聞いてみると、私の感覚では9割方違う。だから25年前からの合言葉で、思い込みとか普通こうだよねっていう風に台本を書かないようにしようと。そこを疎かにすると、シンプルなものが安っぽくなっちゃうんです」
事件ネタであれば、海外だろうと担当弁護士を探した。弁護士が廃業してれば、探偵事務所に依頼。そうして調べていくと、報道だけでは分からなかった事件の裏の顔や、真実が間違って伝わっていることもあった。それまでのリサーチが無駄になろうと、事実と異なれば、容赦なくそのネタはボツにした。
放送が始まったばかりの頃は、再現ドラマということを認識していない視聴者も多く、『なんでこんなつまんない話書くんだ』『もうちょっと考えられないのかよ』といった声も上がっていた。しかし次第に、『やっぱり実際に起きたことってフィクションより強いよね。説得力があって残るよね』という反応が強まっていったという。
“メッセージ性”持たせない再現VTRとナレーション「一番面白いのは、事実と人間」
事件や事故にこだわらず、“人の生き様”を届けたいという『アンビリバボー』「最終的には、人の生き様を描きたいということ。決して事件や事故を取り上げたいわけではなくて、人って小さなきっかけやすれ違いで、こんな予期せぬ結果、奇跡や事件を起こすということを伝えたい。その先に怖かったり、感銘を受けたり、視聴者の皆様方に受け取りは委ねる、っていう形でずっとやってきました」
『アンビリバボー』といえば、ホラーや恐怖事件の印象が強いかもしれないが、苦境を乗り越えたシンデレラストーリーや癒しのペット映像も放送している。特にネタの条件はなく、明らかに大勢の人を傷つけるトピックだけは扱わない。多くの犠牲者が出た事件についても「今それをやる意味があるのか?」と議論を重ねてきた。
「私達が資料を読んだり、当事者と会ってお話を伺ってるだけでも、感動したり、勇気を頂いたり、過去の自分を反省したりするんですね。それをそのままVTRにしたいだけなので、その第一段階として、調べたりお話を聞いたりする中で、まず私達の心が動くかどうかを基準にしています」
- バナナマンのリアクションやコメントに制作陣が気づかされることもあるという
- 2012年より『アンビリバボー』に出演しているバナナマン
だからこそ、事件や事故を煽るような表現には細心の注意を払う。また、当番組の登場人物は基本的に仮名だ。「加害者の実名を出せ」といった声が寄せられることもあるが、番組の目的は、加害者の糾弾ではない。なぜその事件が起きてしまったのかを描き、そこから視聴者が何を感じるのかが重要なのだ。しかし、そこに“メッセージ性”も持たせたくないと角井氏は語る。
「視聴者からしたら嫌じゃないですか。メッセージとか言われても、『いや、知らねーよ』ってなる人もいっぱいいると思うし、そんなに高い敷居じゃなくて、『なんか面白い』『なんか怖い』とか、そういう低いハードルからなんとなく没頭していって、見終わった後に自然と涙が流れたり、心に残るものがあったりするような形が一番良くて。伝えたいことはあるんだけど、押し付けないというその塩梅が難しく、スタッフが一番苦労しているところだと思います」
なるべくセンセーショナルに盛らないように工夫しながら、結論づけるようなナレーションも極力使わない。番組側がVTR終わりで「これは~~ではないだろうか」などと伝えてしまえば、視聴者から感じる事や考える事を奪ってしまうからだ。
再現VTRの後に、当人のインタビュー映像や当時のニュース映像を放送する形式も同番組ではお決まりだ。あくまで再現VTRは実際の映像がないがゆえに、当時の状況を伝える“最後の手段”として制作しているが、「現実、生の声、生の涙、実際の映像に作り物は勝てない」という角井氏の思いが反映されている。
「私は子どもの頃、偉人たちの伝記を読むのが好きでした。織田信長やケネディの話を読んで、こんな人になりたい。そのためにはこんな努力、言動をしなければならない、子ども心にそう思ったものです。やっぱり面白いのは、人間なんです。でも、自分だけでは色んな体験をするのは物理的にも時間的にも無理だから、本を読んだり映画を見たりするわけじゃないですか。この25年で世相やコンプライアンスは変化しましたが、どんな時代も“うれしい”とか“悲しい”、“頭にくる”、“怖い”という人の感情は変わりません。だから、これからもそこを大事にしていきたいですね」
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